腎臓内科の概要
腎臓内科は、1)蛋白尿、血尿などの検尿異常から腎生検を行い、組織診断にもとづいた医療の展開、2)扁桃腺を摘出したIgA腎症でのステロイド・ミニパルス療法後のプレドニン、アンジオテンシン2受容体拮抗薬の投与による寛解・治癒に向けた治療、3)血液透析ならびに腹膜透析患者さんでの治療抵抗性高血圧の病態を解明した循環器系疾患への取りくみ、4)血液透析と腹膜透析を併用したハイブリッド療法の推進、5)カルニチンを投与し、心機能低下ならびに腎性貧血を有する透析患者さんの心機能と貧血の改善をめざす治療、6)透析患者さんを含む慢性腎臓病患者さんのリハビリテーションを診療の柱としています。したがって、検尿異常からの診断と治療から血液浄化療法まで、腎疾患のすべての領域に対応できる診療科を目指しています。
主な対象疾患
患部 | 病名 |
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腎 | 慢性糸球体腎炎、IgA腎症、急性糸球体腎炎 |
急性腎不全、慢性腎不全 | |
ANCA関連血管炎、紫斑病性腎炎 | |
ネフローゼ症候群 | |
膠原病と類縁疾患:(ループス腎炎、関節リウマチ、強皮症、シェーグレン症候群、多発動脈炎など) | |
腎硬化症 | |
糖尿病性腎症 | |
痛風腎、溶血性尿毒症症候群 | |
腎血管性高血圧症 | |
尿細管間質性腎炎 | |
電解質/酸塩基平衡 | Na/K/Ca/P代謝異常、アシドーシス/アルカローシス |
心/循環器 | 腎機能が低下した腎疾患患者には心合併症が多い |
診療内容
2019年度の腎生検は48名、新規導入は血液透析41名、腹膜透析7名の計48名、シャントPTA65件でした。2019年末での維持透析患者は148名で、血液浄化件数は21,875件であり、年々増加の一途をたどっています。なかでも、透析困難症に対する血液濾過透析(HDF)を行う患者さんの割合が増加しています。なお、当院の血液浄化センターの病床数は40床、病棟の病床数は16床であり、患者さんに迷惑をかけないような病床稼働に努めています。診療面では、蛋白尿、血尿などの検尿異常、急速に腎機能が低下する患者さんには腎生検を行い、診療の方針を立て、治療を行っています。そして、組織診断をベースにした症例検討を行い、その内容を診療にフィードバックしています。毎週、木曜日には病棟回診、症例検討、抄読会を行っており、各人が5分以内に要点を述べて問題提起し、ディスカッションすることに重点を置き、治療方針を決定し、診療に生かしています。
主な検査と治療について
- 尿の異常は全身の異常を反映する
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腎臓病を疑ったら、尿の状態がどうなっているか調べることが重要です。尿に異常が現れる病態として、尿比重や尿中電解質に異常が現れる脱水、尿糖が認められたら多くは糖尿病、尿中ケトン体が見られたら飢餓状態、尿中ビリルビンが上昇していれば肝障害、尿中白血球が増加していれば尿路感染が示唆されます。このように腎臓以外の臓器の異常も、尿の状態で推測でき、検尿は非常に重要な検査法の一つであると思います。「尿は全身状態を映し出す鏡」という表現は決して大げさな表現ではなく、ほとんどの腎疾患は自覚症状がなく、早期の腎臓病を確実に診断する方法が検尿であると思います。
- 早朝尿をチエックする
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早朝尿とは、前日の就寝前に排尿し、それ以後は飲食せず採取した、起床時の第一尿のことであり、これを安静時尿といいます。尿検査をする場合、尿カップに排尿してもらい、検査を行いますが、これを随時尿といい、随時尿で尿蛋白陽性を認めた場合には、早朝尿もチエックする必要があります。早朝尿は、病的意義のない生理的蛋白尿を除外するために行っています。起立時、または立位で背中を後方にそらす体位をとったときに出現する体位性蛋白尿、激しい運動や発熱、ストレスなどによって生じる機能性蛋白尿は生理的蛋白尿であり、早朝尿で尿蛋白が陰性であれば生理的蛋白尿の可能性が高いと診断しています。
- 尿糖陽性と血糖値の関係
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尿糖陽性とは、ブドウ糖が尿中に漏れていることを意味しています。ブドウ糖の分子量は小さく、糸球体で100%が濾過され、近位尿細管で再吸収されるため正常では尿試験紙法では検出されません。糖尿病の患者さんでは血糖値が高くなり、糸球体で濾過されるブドウ糖も増加します。原尿のブドウ糖再吸収の閾値は180mg/dLであり、尿糖陽性は血糖値が180mg/dL以上であることを示唆しています。
- 血清クレアチニン値が腎機能の指標になる理由
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クレアチニンは、筋肉に存在するクレアチンの終末代謝産物であります。クレアチニンは分子量が1000と小さいため、糸球体で100%が濾過され、尿細管での再吸収はなく、多くは尿中に排泄されます。したがって、糸球体での濾過能力が低下しますと、クレアチニンの尿中への排泄が低下し、血清クレアチニン濃度が高くなります。血中クレアチニン値の上昇は腎機能(糸球体濾過値)の低下を意味していますが、血清クレアチニン値の弱点は、筋肉量の影響を受けるために、高齢になり筋肉量が少なくなりますと、クレアチニン産生量が低下し、低めにでることにあります。すなわち、腎機能が過大評価されてしまう可能性があるということを意味しています。
- 腎生検の目的
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腎生検の第一の目的は組織学的診断であり、腎臓にどのような変化が起こっているか調べると、重症度や活動性が明らかになることであります。尿蛋白が同程度の場合でも、組織学的な活動性の違いによって治療方針が異なる場合があり、その意味においても、腎生検は治療方針の決定に必要不可欠な検査と言えます。したがって、腎生検の目的は、1)正確な組織診断を得ること、2)病気の見通しを予測すること、3)適正な治療法を決定することにあります。
- IgA腎症とは
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若年者が健康診断で、無症候性の蛋白尿・血尿を指摘された場合に、まず疑うのがIgA腎症です。上気道炎後の肉眼的血尿もIgA腎症を疑う特徴的な症状です。IgA腎症は免疫グロブリンAの沈着、メサンギウム細胞の増殖、メサンジウム基質の増加を特徴とする糸球体腎炎であり、診断されてから、5~20年の経過で、20~40%の患者さんが最終的に末期腎不全に移行します。IgA腎症の予後不良因子は、1)高齢、2)高血圧の存在、3)持続する高度の蛋白尿、4)診断されたときに、すでに腎機能が低下している、4)腎生検における糸球体と間質の線維化が、すでに存在していることが挙げられます。高血圧や蛋白尿を有する場合には、RAS阻害薬を投与し、活動性病変を有する場合にはステロイド治療を行います。扁桃腺を摘出し、ステロイドパルス療法を行うのも有効な治療法の一つです。
- ネフローゼ症候群とは
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腎疾患のなかでも自覚症状がはっきり出やすいのは、ネフローゼ症候群です。高度の蛋白尿、低アルブミン血症、浮腫、高脂血症を特徴としています。患者さんのなかには全く無症状で、尿検査で初めてネフローゼ症候群と診断される場合もありますが、もっとも多い症状は浮腫であります。とくに下肢に顕著に現れ、急激な発症は、微小変化型ネフローゼ症候群や巣状分節性糸球体硬化が疑われます。緩徐な発症では、膜性腎症などの可能性があります。動くと息切れがするなど体動時の呼吸困難を訴える場合は、肺水腫や胸水の貯留を、腹部膨満感、腹囲増大を訴える場合は腹水貯留の可能性があります。ネフローゼ症候群の原疾患の鑑別には腎生検が重要であり、治療方針を立てる上でも組織診断が必要であり、腎生検を行います。
- 糖尿病性腎症とは
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糖尿病性腎症が原因で透析導入される患者数は増加の一途をたどっています。腎機能が低下した糖尿病性腎症では、大血管障害による冠動脈疾患や脳血管障害、細小血管障害による神経障害や網膜症を合併するため、多くが予後不良です。現在、早期に腎症を診断する有力な検査は微量アルブミン尿の測定です。糖尿病性腎症が、他の腎炎の経過と異なる点は、1)微量アルブミン尿が出現した時点で、すでに腎障害があること(早期腎症)、2)いったん顕性蛋白尿を認めると、ネフローゼ状態を呈しやすいこと、3)顕性蛋白尿を認めると、その後。血清クレアチニン濃度が上昇し、腎機能が急速に悪化することを上げることができます。
- 慢性腎臓病とは
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腎臓病は、その原因、病態、臨床像、組織像に応じて、多くの病名が存在します。そのため、腎疾患の診断や治療は、患者さんはもちろん、一般内科医さえわかりにくい状況が続いていました。そこで、従来の疾患分類とは別に、検尿異常と血清クレアチニン値から求めた糸球体濾過値(GFR)の2つを基準にして腎臓病を捉えようとする新しい疾患概念が生まれました。これが慢性腎臓病(CKD)であり、きわめて単純な診断法です。CKDの概念が生まれた背景は、1)CKDは末期腎不全だけでなく、心血管障害の発症リスクでもある、2)CKDの有病率は高く、今後も増加することが予測される、3)早期発見によってCKDの進展予防、治療が可能である、4)透析療法が必要な末期腎盂全患者が増加している、ことがあげられます。CKDを早期に発見し、治療介入できれば、進行抑制あるいは治癒も期待できます。
- 透析治療とは
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腎機能が低下していくと、尿として排出されるべき水分や老廃物が体内に貯留します。この状態を尿毒症と呼びますが、このような状態になると、腎代替療法として透析治療が必要になります。すなわち、透析治療とは。「腎臓の代わりに水分や老廃物を除去し、体に必要な物質を補充する治療」のことであります。透析治療は大きく分けて、血液透析と腹膜透析の2種類がありますが、本邦では95%以上の方が、血液透析を行っています。透析治療の目的は、1)蛋白代謝最終産物の除去、2)血清電解質の正常化、3)酸塩基平衡の是正、4)体内余剰水分の除去、であります。透析導入開始基準は、1)尿毒症の症状が生じた場合、2)浮腫や肺水腫など、体液量のコントロールができなくなった場合、3)電解質や酸塩基平衡のバランスの維持ができなくなった場合、であります。
実績
検査内容 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 血液透析 | 135 | 146 | 142 | 146 | 133 | 腹膜透析 | 14 | 15 | 18 | 15 | 16 | IgA腎症 | 54 | 46 | 40 | 89 | 92 | 糖尿病性腎症 | 33 | 39 | 36 | 36 | 38 | ネフローゼ症候群 | 14 | 12 | 18 | 94 | 93 | 多発性膿胞腎 | 5 | 11 | 8 | 27 | 26 | 急性腎不全 | 22 | 34 | 32 | 16 | 10 | 慢性腎不全 | 124 | 120 | 126 | 210 | 179 |
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スタッフ紹介
部長メッセージ
腎臓内科は、尿検査や血液検査などの異常時に受診することが多く、腎機能障害が高度に進行しなければ自覚症状が出てこないため、検診など受診していない方には馴染みの無い診療科です。しかし、腎臓は、一旦悪化すると元の腎臓機能には戻ることの少ない臓器であるため、日頃から検診など受診していただき、異常など指摘されましたら受診をしてください。また、腎機能障害や尿蛋白や尿潜血などで不安のある患者さんの開業医の先生方からのご紹介を随時対応しております。患者さんに満足していただける医療提供に努めていきます。地域医療に貢献していきますので、医師会の方々含め、近隣の医療機関の皆さまと連携を深め、地域医療に貢献していきますので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
腎臓内科 診療部長 山本 順一郎
- 氏名
- 山本 順一郎
- 大橋 宏重
- 大野 道也
- 松﨑 拓朗
- 古宮 大基
- 松本 惇
- 淺野 由子
- 大城 夢乃
- 加藤 周司
- 安田 宜成
- 職務
- 教授
- 教授
- 教授
- 医師
- 医師
- 医師
- 医師(嘱託)
- 医師(嘱託)
- 客員教授・非常勤
- 非常勤
- 専門分野、学会認定など
- 急性腎障害、慢性腎臓病、ネフローゼ症候群、血液浄化(血液透析など)
- 慢性腎臓病、高血圧、血液浄化
- 慢性腎臓病、血液浄化、循環器合併症
- 腎臓内科一般
- 腎臓内科一般
- 腎臓内科一般
- 腎臓内科一般
- 腎臓内科一般
- 慢性腎臓病、循環器合併症
- 腎臓内科一般
- 卒業大学
- 岐阜大学
- 岐阜大学
- 卒業年
- 1971
- 1988