睡眠医療センターの概要
岐阜県の総合病院としては初の睡眠医療センターとして開設いたしました。
睡眠診療を専門とする医師と臨床検査技師のスタッフが常駐するとともに、総合病院の特徴を生かし、他の診療科との連携のもと、質の高い睡眠医療を行います。
睡眠医療の柱である終夜睡眠ポリグラフィを常時監視で行うとともに、経験と科学的根拠に基づいた確実な診断・治療を行い、人生にとって大切な「眠り」の問題を気軽にご相談いただけるセンターを目指します
2020年10月1日に開設いたしました。
詳細はこちらのPDFをご覧ください。
主な対象疾患
- 睡眠呼吸障害
- 過眠症
- 睡眠時随伴症
- 睡眠関連運動異常症
- 睡眠関連てんかん
- 病名
- 閉塞性睡眠時無呼吸、中枢性睡眠時無呼吸症候群、肥満肺胞低換気、カタスレニア(睡眠関連うなり)
- ナルコレプシー、特発性過眠症
- レム睡眠行動異常症、頭内爆発音症候群
- レストレスレッグス症候群(むずむず足症候群)周期性四肢運動異常、睡眠中のミオクローヌス
- 夜間前頭葉てんかん、側頭葉てんかん、若年性ミオクロニーてんかん
診療内容
睡眠医療センターは睡眠時無呼吸のみならず睡眠中におこるさまざまな事象、「睡眠関連疾患」を取り扱う科です。
睡眠関連疾患には不眠、睡眠関連呼吸障害(睡眠時無呼吸など)、過眠症(昼間に眠くなる疾患)、睡眠覚醒リズム障害、睡眠時随伴症(レム睡眠行動異常症などの睡眠中の発声や動く疾患)、睡眠関連運動異常症(レストレスレッグス症候群、周期性四肢運動など体の一部の筋肉が動く疾患)、睡眠関連てんかん(主に睡眠中に発作がおこるてんかん)など様々な疾患があります。またこれらの疾患が重複して存在することも多く、的確な治療方針を決定するためには、くわしい病歴や昼間の生活状況の把握、正確で詳細な検査(常時監視による終夜睡眠ポリグラフィ)が重要です。
脳神経内科医としての専門性をいかし、睡眠時無呼吸のみならず、過眠症や睡眠中の運動に対しても積極的に取り組み、てんかんや関連する神経変性疾患(パーキンソン病等)への対応も可能です。閉塞性睡眠時無呼吸に対するCPAP療法に関しても経験豊富な検査技師とともによりよい状態で使用継続できるように積極的に対応しております。
なお当院には精神科、小児科がない関係上、精神疾患に伴う不眠、睡眠薬や精神安定剤などの薬物依存、小学生以下(12歳以下)の方の診療は行っておりません。
主な検査と治療について
- 検査施設外睡眠検査(睡眠呼吸障害モニター)
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閉塞性睡眠時無呼吸が疑われる際に、外来で行う検査です。
日中の眠気、起床時頭痛や集中力の低下を認めたり、睡眠時のいびきや無呼吸を指摘された場合には閉塞性睡眠時無呼吸が疑われます。閉塞性睡眠時無呼吸は睡眠が分断されるために昼間の眠気を引き起こし、社会生活に影響が及びます。また高血圧、糖尿病、脳血管・心血管障害への関与もわかっています。
肥満による閉塞性睡眠時無呼吸がよく知られておりますが、日本人の場合はやせていても顔面骨格(小さい顎)の問題で無呼吸になられる方もおられます。また子供さんも含め扁桃肥大が原因のこともあります。
自宅で行う検査機器は指先にのみにつける簡単なもの(パルスオキメトリ)からセンサーが数種のものと様々ですが、患者さまに合わせた機器にてスクリーニングをします。その結果により、精密検査(終夜ポリグラフ検査)を行うかを決定します。 - 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
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終夜睡眠ポリグラフ検査は脳波、筋電図、呼吸運動、心電図、血液中の酸素濃度などを測定し、睡眠の状態や、睡眠中の呼吸状態、睡眠中の動きについてしらべます。
1泊2日の入院で行う検査となり検査当日夜に病院に来ていただいて、午前中早い時間に退院していただくことも可能です。トイレ付きの個室で行い、検査中もお手洗いに行くことができます。
疑われる病気により、脳波や筋電図のセンサーの数が多くなることもあります。検査技師が検査状況を一晩中確認していますので、センサーの外れ等を気にすることなく寝ていただけます。 - 持続陽圧呼吸療法(CPAP)圧調整
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中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸の治療としてはCPAP療法という空気圧により気道を確保する治療法が選択されます。このCPAP療法においては必要圧が患者様により異なり、低すぎては効果がなく、高すぎれば不快な感じのみで使用継続ができないということが起こります。
またマスクの形状選びも重要で顔の形にあったマスクを選択することが治療継続につながります。このために当センターではCPAP圧は終夜睡眠ポリグラフ検査を行いながら患者様の呼吸の状態、睡眠の状態を確認し圧の決定を行う検査を1泊入院で行います。そのうえで翌朝マスクの使用感や圧への不快感を確認して、CPAP機器のマスク・圧決定を行います。 - 閉塞性睡眠時無呼吸の治療
- CPAP療法:中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸の方への治療です。圧調整の検査入院後、CPAP機器を自宅に持って帰っていただき睡眠中に使用していただきます。睡眠状態がよくなり眠気の改善や夜間のトイレ覚醒の減少、起床時の頭痛などの改善とともに、高血圧などへの好影響も期待されます。外来診療時には毎回使用状況や効果の確認を機器に記録されるデータで確認します。またマスクからの空気の漏れや機器の不具合等があれば外来時に検査技師がその場で対応して使用継続をめざします。
口腔内装置:下の顎を前方に移動保持することにより気道を確保する装置です。歯科にて作成し寝る前に装着し、中等症以下の閉塞性睡眠時無呼吸で有効とされています。
手術療法:扁桃肥大のある方は耳鼻咽喉科での扁桃摘出術が有効な場合があります。 - 反復睡眠時検査(MSLT検査)
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昼間の眠気の原因は睡眠時無呼吸のみではありません。睡眠時無呼吸による眠気は夜の睡眠の質が悪くなることが原因で昼間に眠くなりますが、夜の睡眠の質が問題ではなく覚醒が維持できないために昼間居眠りしてしまう疾患が過眠症と呼ばれるものです。
過眠症の診断に欠かせない検査がMSLT検査です。終夜睡眠ポリグラフ検査で夜の睡眠の状態を確認したのちに、翌朝午前9時から2時間ごとにお昼寝をする検査です。寝つくまでの時間やナルコレプシーに特徴的な所見がないかなどを調べます。終了は入院翌日の17時30分くらいになります。 - 過眠症の治療
- 過眠症の代表的なものとしてナルコレプシーがあります。ナルコレプシーの典型的なタイプは、14-16歳でがまんできない眠気が出現し、笑うと体の力が抜ける(情動脱力発作)や金縛りなどの症状が出現します。日本人では1、000人に一人くらいといわれています。居眠りを病気と思われず診断が遅れたり、精神的な病気と間違われていたりすることもあり早期の診断が重要です。現在は眠気に対するお薬と情動脱力発作や金縛りのお薬により症状のコントロールが可能な病気になりました。
- 覚醒維持テスト(MWT)
- 眠気を誘う場面で、きめられた検査スケジュールの中で眠気をこらえる(=覚醒を維持する)能力を評価する唯一の標準化された検査です。検査前夜は十分に睡眠をとっておき、起床後1.5-3時間後に2時間間隔で4回40分おきていることができるかをしらべます。
- 脳波検査
- 睡眠関連てんかんが疑われる際には夜の終夜睡眠ポリグラフ検査の際に脳波の電極を通常より多く装着して行いますが、さらにお昼間にも脳波検査を行います。脳波検査は脳から出ている電気活動を測定するもので、電極を付けてベッドに横になっていただくだけの検査です。特にピリピリしたり痛みを感じたりすることはありません。異常な電気活動を示す波形がないか等をみることにより、脳の働きをみる検査です。
- 画像検査
- MRI検査:睡眠随伴症や睡眠関連運動異常症、睡眠関連てんかんなどで、脳や脊髄の病変も否定でない際には脳MRI、脊髄MRI等を行います。当院では2台のMRIが稼働しており迅速な対応が可能です。
核医学検査:神経疾患(パーキンソン病等)の鑑別が必要な時に用いる検査で、当院で施行可能です。 - レム睡眠行動異常症(RBD)の診断治療
- レム睡眠行動異常症は、夢をみていて夢の内容と同じ行動、例えば泥棒を追い払う夢を見ていて大きな声を出す、足元に蛇がいるのではらう夢を見て 足で布団を蹴る など がみられる睡眠随伴症と呼ばれるものの一つです。中年以降の男性に多い病気ですが、診断には詳細で安全な終夜睡眠ポリグラフ検査が必要となります。他にこのような行動をおこす病気(閉塞性睡眠時無呼吸など)がないかなどをきちんと鑑別したうえで診断し、行動が激しくけがの心配がある場合などはお薬で症状をおさえていきます。
- レストレッグズ症候群の治療
- 主に足が安静や夜になるとなんともいいがたい不快な感じが出現し、動かしたくなる、じっとしていられない、動かすと少しこの感覚が軽減するという病気です。このためになかなか寝つけないということがおこります。この病気の方のうち一部の方では鉄代謝が関係しており、血液検査でこれが判明すれば鉄剤の補給を行います。また不快な感じへの効果のある薬剤の調整にて寝つけないという症状の改善が期待できます。
実績
検査件数 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
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1.睡眠呼吸障害モニター | 25 | 50 | 90 | 91 | |
2.終夜睡眠ポリグラフ検査 | 評価 | 10 | 33 | 20 | 25 |
持続陽圧呼吸(CPAP)療法導入 | 7 | 62 | 65 | 71 | |
反復睡眠潜時検査(MSLT)を伴うもの | 5 | 18 | 28 | 20 |
スタッフ紹介
部長メッセージ
睡眠医療センターは2020年10月に開設されました。睡眠医療とは睡眠中の疾患をよくすることで昼間の生活(覚醒)や健康を維持することを目標とする医療です。
睡眠は精神的な要因の影響を受けるだけではなく、身体的な原因で「睡眠中に呼吸がおかしくなる」、「睡眠中に声を出す・体が動く」、「昼間におきていることができない」など様々な症状を来す疾患と関係します。
いくつかの原因や病気が合併していることも多くみられます(例えば、閉塞性睡眠時無呼吸とレム睡眠行動異常症の合併などがそうです)。閉塞性睡眠時無呼吸は「いびきをかくだけで自分では特に困っていない」という方でも、実は様々な病気(高血圧・糖尿病・脳卒中・心筋梗塞)を引き起こす一因となります。また、治療後に自分では気づいていなかった眠気が良くなった、あるいは集中力が改善したことなどを実感できることもあります。
睡眠の重要性はわかっていてもどこを受診すればいいのかわからない、ということのないように、眠りの問題を気軽に相談していただけるセンターを目指します。また「総合病院の睡眠医療センター」としての強みを生かして、各診療科と協力し合いながら最適な医療を提供します。
そして、近隣の先生方、皆様のかかりつけの先生方とも連携をとって「地域の睡眠を守る睡眠医療センター」になりたいと考えています。
睡眠医療センター 大倉 睦美