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脊椎センターの概要
近年高齢化とともに、脊椎脊髄疾患による症状を呈する患者さんも非常に増加しております。
腰痛、頚部痛、四肢の痛みや痺れ、両手の巧緻機能障害(箸が使いにくい、ボタンが留めにくいなど、手指で細かい動作ができにくくなること)、歩行障害など、脊椎を起因とする症状により、生活動作や社会活動に支障をきたす患者さんが増加し、健康寿命の低下が危惧されております。その健康寿命の延伸のためにも、脊椎脊髄疾患に対し適切な治療が求められております。しかしながら、高齢化のため、疾患構造も非常に複雑化しており、診断ならびに治療に対して専門的知識や技能が必要になってきております。そのためにも、脊椎脊髄領域に専門性を有している医師を中心に診断および治療を施行し、より高水準な医療を提供できるように脊椎センターを開設いたしました。
(健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のこと)
主な対象疾患
病態:患部 | 病名 |
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変性疾患:頸椎 | 頸椎症性脊髄症、頸椎症性神経根症、頸椎後靭帯骨化症 |
変性疾患:胸椎 | 胸髄症、胸椎後靭帯骨化症、胸椎黄色靭帯骨化症 |
変性疾患:腰椎 | 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症、腰椎分離症、腰椎変性側弯症 |
骨折・外傷:頸椎 | 頸髄損傷、中心性頸髄損傷、頸椎骨折 |
骨折・外傷:胸椎 | 胸椎圧迫・脱臼・破裂骨折 |
骨折・外傷:腰椎 | 腰椎圧迫・脱臼・破裂骨折、腰椎横突起骨折 |
腫瘍:脊椎 | 脊椎硬膜内髄外腫瘍、脊椎転移性骨腫瘍 |
感染:脊椎 | 化膿性椎体椎間板炎、脊椎硬膜外膿瘍 |
その他:脊椎 | 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折、リウマチ性脊椎症、透析性脊椎症、特発性側弯症、脊髄硬膜外血腫 |
診療内容
主たる症状として、腰痛、頚部痛、そして脊髄症状、馬尾症状や神経根症状を呈する疾患を対象としています。
脊髄症状とは、頚椎に障害が出現し、両手足のしびれなどの知覚症状、箸の使いにくさ等が出現する巧緻機能障害や筋力低下、歩く時によろめき階段の昇り降りが不安定になったりする歩行障害などの症状を認めます。
馬尾症状は、腰椎に障害があると出現し、立ち上がった時や歩いた時に両足とくに下腿の外側や後ろ側が痛くなったり痺れたりする症状で足底部に認めることもあります。それらの症状は短時間の休息で改善することが特徴で間欠性跛行といわれています。病態が悪化すると、排尿障害を認め膀胱直腸障害が起こることもあります。
神経根症状は頚椎にも腰椎にも症状の原因の可能性があり、頚椎に問題がある場合は頸部から片側上肢に痛みや痺れが、腰椎に問題がある場合は臀部から片側下肢に放散するような痛みや痺れが出現したりし、重篤化すると筋力の低下が起こってきたりするのが特徴です。
上記の症状は典型的な症状であり、非典型的なことも多くありますので、脊椎に心配があるようなことがあれば、是非外来に受診していただければと思います。
主な検査と治療について
- 腰椎椎間板ヘルニア
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保存療法としては、様々な種類の投薬を単剤もしくは組み合わせで使用します。また、内服薬でも効果がない場合は、神経根ブロック等のブロック療法を施行します。
保存療法の効果が持続せず、疼痛にて日常生活や社会活動に支障が出る場合、手術療法を考慮します。手術療法としては、部位およびヘルニアの状態によって、選択する治療療法が変わります。当院では、椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)、内視鏡下椎間板摘出術(MED:Micro Endoscopic Disectomy)、ヘルニア摘出術(棘突起縦割式椎弓形成術+ヘルニア摘出術)を、病状および病態に合わせ手術療法として選択します。 - 腰部脊柱管狭窄症
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保存療法としては、様々な種類の投薬を単剤もしくは組み合わせで使用します。また、内服薬でも効果がない場合は、装具療法や神経根ブロック、坐骨神経ブロック等のブロック療法を施行します。神経根症状の場合は、比較的保存療法が有効ですが、馬尾症状の場合は、保存療法に抵抗性がある場合が多いです。
保存療法の効果が限定的で日常生活に支障がある場合、手術療法を考慮します。手術療法としては、腰椎に不安定性がない場合は、棘突起縦割式椎弓形成術もしくは開窓拡大術(写真1)を選択しています。 - 腰椎変性すべり症
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保存療法としては、腰部脊柱管狭窄症同様に、様々な種類の投薬を単剤もしくは組み合わせで使用します。また、内服薬でも効果がない場合は、装具療法や神経根ブロック、坐骨神経ブロック等のブロック療法を施行しています。
手術療法としては、腰椎に不安定性がない場合は、腰部脊柱管狭窄症の手術療法と同様に、棘突起縦割式椎弓形成術もしくは開窓拡大術を手術療法として選択しています。ただし、腰椎に不安定性がある場合や腰椎のずれの程度が大きい場合には、腰椎椎体間固定術(写真2)および腰椎後方除圧術を主に施行しております。 - 腰椎分離症
- 年齢や腰椎分離の程度によって治療方針および治療方法が異なってくるため、レントゲン、CT、MRI等の画像診断を必要に応じ施行し、病状把握を第一とします。
保存療法としては、投薬、装具治療を含めた安静、分離部ブロックなどを、病期および症状に応じて選択します。
手術療法としては、保存療法が効果がない場合、分離部修復術や、腰椎すべり症も伴う場合は腰椎椎体間固定術を施行しております。 - 胸髄症
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腰から下のしびれや脱力感で発症し、症状がひとたび進行すると歩行障害も伴う病態です。原因としては、胸椎後靭帯骨化症(写真3)、胸椎黄色靭帯骨化症などの胸椎部の脊柱管を狭窄させてしまう病変が問題となります。
保存療法としては、投薬などがありますが、ひとたび歩行障害が発現すると保存療法での症状の改善はなかなか困難です。
手術療法としては、胸椎後方除圧固定術(写真4)を施行しております。 - 頸椎症性神経根症
- 片側上肢のしびれや疼痛で発症し、急性期においては頸部から肩甲骨や肩周囲、指先まで放散する激痛を認めることもあります。
保存療法としては、様々な種類の投薬を単剤もしくは組み合わせで使用します。たとえ症状が激痛でとしても、多くの場合、適切な投薬治療により症状は改善します。
手術療法としては、保存療法が効果がない場合(当院では3ヶ月程度の投薬加療にても効果がない場合)、頸椎後方除圧術や固定術を施行しております。 - 頸椎症性脊髄症
- 両手足のしびれなどの知覚症状、箸の使いにくさ等が出現する巧緻機能障害や筋力低下、歩く時によろめき階段の昇り降りが不安定になったりする歩行障害などの脊髄症状を呈します。
保存療法としては、投薬や頸椎カラー固定などがあります。保存療法を施行していても症状の改善がなく、症状の進行性がある場合は、手術療法も選択となります。
手術療法としては、頸椎の配列が適切な場合は頸椎椎弓形成術を、頸椎の配列に後弯変形を認める場合やすべり症がある場合は頸椎後方除圧固定術を施行しております。 - 脊椎破裂骨折
- 高所からの転落や、交通事故など高エネルギー外傷により発生することが多く、脊椎以外の外傷も伴うことが多い疾患です。
麻痺を伴わない場合は、保存療法として、6週間程度の長期安静臥床により骨折部の安定性を獲得します。しかしながら、長期臥床が困難もしくは早期活動性の獲得のため、手術療法が選択されることが非常に多くなっています。手術療法としては骨折部の安定化のため、脊椎後方固定術が選択されています。 - 骨粗鬆症性圧迫骨折
- 転倒などの軽微な外傷によって発症しますが、最近では外傷の既往も認めないのに骨折を認める「いつの間にか骨折」も非常に多く見受けられます。診断にはレントゲンで骨折は確認できますが、当院ではMRIの画像所見にて骨折型および骨折部の状態を確認することにより、骨折の発生時期や骨折部の予後などを把握するよう努めております。
保存療法としては、投薬や装具治療を施行し、同時に骨粗鬆症の精査および治療をしております。保存療法にても症状改善ない場合や、MRIにて骨折部の偽関節化や高度圧潰化の可能性が高度に予想できる場合は、経皮的椎体形成術(BKP:Baloon KyphoPlasty)も施行しております。 - 化膿性椎体椎間板炎
- 腰痛、発熱を伴い、特に安静時痛も認めることが多いのがこの疾患の特徴です。糖尿病、透析、皮膚疾患、歯周病などの基礎疾患を認めることが多く、症状が強い場合は血液内にも細菌等の検出を認める菌血症にいたることもあります。治療の基本は、抗生剤の長期投与と安静であり、最近では炎症に侵された椎体および椎間板の安静を強固に保つため、脊椎後方固定術(罹患椎体椎間板を除く)を施行しております。
実績
手術実績 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
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頸椎 | 13 | 10 | 10 | 15 | 7 |
胸椎 | 4 | 10 | 11 | 11 | 14 |
腰椎 | 55 | 109 | 119 | 135 | 145 |
合計 | 72 | 129 | 140 | 161 | 166 |
スタッフ紹介
部長メッセージ
2019年より朝日大学病院に赴任し、当院にて脊椎疾患分野の治療を支えて下さっている今泉教授(整形外科:診療部長)とともに、脊椎疾患を中心に診療しております。
前勤務地である、昭和大学江東豊洲病院においても整形一般外傷や、多くの脊椎疾患を中心に診療してまいりました。その間、特に術後合併症である、術後疼痛や術後悪心嘔吐に対しての予防に関して臨床研究し、現在でもその軽減に努めております。また、一人一人の症状に対して、脊椎センターだけではなく、脳神経外科、神経内科、麻酔科、看護部、放射線部、リハビリテーション部などと協力することにより、専門的かつ横断的な臨床知識を活用し一人一人に対し適切な治療、そして寄り添う治療ができるよう努めていきたいと思います。
脊椎センター 星野 雄志